情報という言葉について

2022-02-16

Written by sosuisen

情報

情報理論

小野厚夫 「情報ということばーその来歴と意味内容」 冨山房インターナショナル (2016)

「情報」という言葉の意味を説明するのは、そもそもの意味合いの深さに加え、訳語としての成り立ち、戦前戦後、コンピュータ以前以後の時代による変化も伴うため難題となっています。

著者は用例研究に基づいて、明治初期における軍用語としての生まれ、日清戦争期からの一般語としての普及、アジア・太平洋戦争期における諜報に関わる語としての変質、戦後のタブー視、情報化社会以降の一般語としての再生を追っています。また、現在における使用の広がりにも触れることで、情報という言葉の歴史とその諸相が示されます。

意味としては日清戦争期までは現在とほぼ等しい「知らせ」を指して、ここへ時代とともに特定の用法が強調されたり意味合いが加わってゆきました。 のちにスパイ活動、言論統制とも深く結びつき、 戦後、世間で情報産業・情報化社会といわれはじめた1960年代からは、コンピュータに関わる語としても広く認知されました。

読書メモ

以下は、個人的な興味に沿った読書メモです。情報学系の学生さんに対して「情報」という語が計算機分野で用いられた背景を説明したいということがきっかけでしたが、あとがきを読むとこれは著者の動機と同じでもありました。

なお、情報学分野でまず興味が持たれるのは、シャノンの「情報理論」において information という語の採られた理由だと思いますが、そちらはジェイムズ・グリック「インフォメーション 情報技術の人類史」(楡井浩一訳、新潮社、2013年)のほうが詳しいので合わせて読むのが良いと思います。

(情報理論との関わりについてここからあれこれ考えたことは別の記事としました。)

「情報」について調べるなかでこのページに辿り着いてしまった方は、本書の内容はここにあるより遥かに網羅的かつ豊潤なためぜひ原書にもあたって頂きたく思います。本記事ではご覧の通り章ごとに取り上げた分量もばらばらとなっております。

基本的には個人的な要約と抜き書きで、特に感想めいた話は《》内に記しました。

第1章 「情報」の初出

第2章 陸軍における「情報」

第3章 「情報」の一般化

第4章 第二世代の「情報」

第5章 「情報」の暗黒期

第6章 現代の「情報」

《一般語としての information と情報科学の出会い》

「情報」という言葉の諸相

読書メモは以上です。

付録:情報ということばへの不信の時代

戦後に「情報」という言葉にアレルギーを持つ人が多くみられたことは、本書 p.195-201に事例が複数挙げられています。私が1970年の「情報処理振興事業協会等に関する法律」を調べた際、審議会の議事録中にも同様の事例が見られたので参考のためここに載せておきます。戦前派の「情報」という言葉に対する不信、またそうでなくても「情報」という言葉の意味を共有するのは難しいということを同時に見て取ることができると思います。